東京の人

4月1日の金曜日、おれは東海道新幹線品川駅にいた。世はエイプリルフールなんだし、東京を離れて名古屋への切符が、嘘であって欲しいと強く願っていたと思う。
転勤を告げられた時は年度末だったからか、仕事の引き継ぎ等を含めあっという間の2,3週間だったような気がする。

ただ……時間を見つけては【おれの好みの暗くて友達いなさそうな女性さん】の事を職場の人間から聞いたり、古い社報を引っ張り出しては情報収集していた。その時、自分の頭の中に引っかかる事があったが、思い出せないぐらいだからたいした事ではないと理由付けていた。

新幹線なんて何度も乗っているのに、運動会や遠足前日の小学生のような、ドキドキ・ワクワクする気持ちだった事を今でも強く憶えている。

彼是と考えているうちに名古屋駅に着いた。人生2度目の名古屋だ。
一番最初は今の会社の面接の際に訪れた時だ。
そう…面接。やっと引っかかっていた出来事を思い出した。面接のときに案内してくれた"""あの"""女性、とりとめのない会話をし、何処から来たのか尋ねられた時、自分にとってはごく当たり前の返事だった東京に対して、目をキラキラ輝かせながら「東京の人なんですね!」と言っていた彼女が【おれの好みの暗くて友達いなさそうな女性さん】だったのだ。

27年東京に住んでいて、地方からこちらに来る人間を多く見てきた自分にとっては、あまりにも新鮮な言葉だったのだ。

幸いにも、会社に着いたその日も彼女が案内してくれたが、おそらくなにも当時の出来事を覚えていないだろう。ただ、あの日も当時と同じようなとりとめのない会話をなぞっていたが、同じ話に鬱陶しいやウンザリする自分はいなかった。
彼女の声が心地良く感じ、写真で見るよりずっと綺麗だったから。